新学期が始まったんですね
先週のある日、お昼にガスの点検立会いがあったために、会社に向かって家を出たのがお昼くらいになった。
いつも通りにバスに乗るとぴかぴかのランドセルを担いだ男の子が、運転席のすぐ横に立っている。乗りなれないバスの景色が楽しくて前に立っているのかな、と思っていたら、どうも様子がおかしい。
運転手が、乗ったところで降りたらいいからな、とか、ここにいててな、とか、その男の子に話しかけている。どうも、乗りなれていないバスに戸惑っているみたいだ。どこで降りたらよいのか判らないのかもしれない。
私は遅れたついでにその男の子の家を捜すのを手伝おうかな、とか、前に座っているおばあさんが助けてくれたらいいのにな、とか思いながら、彼らのやりとりを見守っていた。
唐突だけど、私はバスがあまり好きではない。
小さい頃、バスなんてほとんど乗ったことがないし(いいとこの子、じゃなくて、いなかの子、だから)移動はいつも車だった。大体バスなんて基本的には車なのだから道さえあればどこへでも行けるんだし、どこに連れて行かれるか判ったもんじゃない。初めて乗るバスは、正しいバスに乗っていたとしても気がそぞろである。
私はぴかぴかのランドセルを背負った男の子の心細さに同調して、切ない気持ちになっていた。
バス停でバスが止まったときに、運転手は男の子に目を遣る。そして話しかける。大丈夫だよ、大丈夫だよ。
そこでふと、運転手の手が男の子のランドセルにぶら下がっている定期に伸びる。あ、○○って書いてあるやん、バス停次やで、次で降りたらええよ。
バスが走り出してからも、この景色判るか?見たことないか?運転手は男の子に話しかける。
バス停に着く前に、男の子の横に座っていたお年寄りの女性が立ち上がり、彼女もまた男の子に声をかける。おばあちゃんも次で降りるからな、大丈夫やからな。
とうとうバス停に着き、男の子はバスから飛び降り駆け出そうとする。判るか?大丈夫か?の運転手の声に、無言で頷き、そして走り出す。
自分が巻き込まれなかったことに胸をなでおろしつつも、切なくて甘酸っぱい。